土地・建設産業局長賞 私はドボジョ 関口美幸

私は「ドボジョ」。建設現場で働く女の子の存在が全く認知されない6年前から、この会社でただひとり、土木系女子として働いている。
この仕事に就くことは小さいころからの夢ではなかった。誰の目にも小柄な私がこの業界に飛び込むことに友達は反対した。両親も賛成してはくれなかった。脳ミソだって、どちらかといえば理系向きではないと思う。土量の算出も座標の管理も、もちろん今も得意ではない。でも、私が社会へ出たのは今とは違って就職難の時代。女性がひとりで自立して生きていこうと思っても、ハローワークは職を求める長蛇の列で、同世代の屈強な男子でさえ職にあぶれていた。そんなとき私は、建設業はダメもとで飛び込むには決して悪くない業界だと思ったのだ。上手くいかなかったら辞めればいい。非力でもできる仕事はあるはずだし、女性というだけで大目に見てもらえることもあるだろう。向う見ずな私は、何とかなるさと軽いノリで飛び込んだのだった。
私の予想は半分くらい当たっていた。創業以来、初めての現場女子として入社した私を、ひとまず職場は歓迎してくれた。トイレは男女兼用だけれど、昼休みになれば女性専用の休憩室があった。現場への移動車は禁煙ではなかったけれど、重い荷物をひとりで運べなんて言われたこともない。上司は半人前の私が手に負えないような仕事量を一度に与えることはなかった。残業することもほとんどなかったし、強引に飲みニケーションに誘われることもなかった。現場の皆は、たまにセクハラなのかスキンシップなのかわからないこともあるけれど、私が女性であることを、戸惑いながらも気遣ってくれた。
でも、ひとたび仕事となると、現実はまるで違った。軽いノリで務まる仕事なんて何一つもない。当たり前だ。私たちの仕事は、地域の安全・安心に直結する。たった一つの油断、たった一つの報告漏れが大事故に繋がるリスクを常に抱えているのだから。
例えば除雪だ。私は県道除雪の責任者として、請け負った区間のパトロールから凍結防止剤の散布、ドーザやモーターグレーダーの出動手配、備品の発注から機械の修繕までを一手に引き受けている。新潟県の中山間地にあたる出雲崎町は海が近く、決して豪雪地域ではないのだが、除雪作業は一瞬の判断ミスが事故や渋滞の引き金を引く。たった一時間、出動が遅れただけで、降り積もる雪は地域の交通網を麻痺させる。苛立つ地域住民の苦情はやがて役所に、会社に、オペレーターたちに向けられる。「仕方ないよ、とにかく今日はゆっくり休め」と慰められる度、私は何度も自分の未熟さを痛感した。
去年の春、念願の資格を取得した私は今、二級土木施工管理技士として小規模治山工事を担当している。入社以来、施工管理の補助員として、朝礼で一日の段取りを学び、現場では仕事の流れを学んできた。発注者との打ち合わせ、下請け業者との工事打ち合わせ、工程管理、安全管理、様々な工種の積み重ねがやがて道路となり水路となる土木の仕事を私なりに勉強してきたつもりだけれど、誰かの補佐ではなく、ここはまぎれもなく「私の現場」。プレッシャーのかかり方が今までとはまるで違う。
もしかしたら、発注者や協力業者のなかには、現場での経験が浅く非力な私のことを、「アイツで大丈夫なのか?」と不安に思っている人もいるだろう。それはそうだ。治山工事ひとつとってみても、現場が違えば何もかもが違う。そこは経験に基づく判断力がものをいう世界で、資格者証なんて現場じゃ何の役にも立たない、まさに実力の世界なのだから。
いろいろと不安はあるけれど、今日も私は工事の完成を目指して現場へ通う。車ですれ違うときのパッシングは、ひとつの工事を安全に完成させるために協力し合う皆の共通の挨拶。「頑張れ」って聞こえるから、私も「頑張ろう」って返す。そこには発注者も元請け企業も納入業者も関係ない一体感がある。私は今、その中に自分がいることがとても誇らしい。
もしも、この業界に飛び込もうとする女の子がいるのならば、私は少し先輩としてこうアドバイスしたい。「いいじゃん、ドボジョ! 楽しいよ、ゲンバ!」

出典元 建設産業人材確保・育成推進協議会
http://www.yoi-kensetsu.com/shigoto/h27_opinon/opinion04.html